やがて、鹿は人となる/やがて、人は鹿となる
¥2,530
山は、自分たちの手で守らなければいけない。
そんな思いが、今の自分を動かしている。
太鼓の音と波の音が。幾度も折り重なっていった。
時に人は鹿となることで、繁みの奥へと分け入ることが許される。
自らを隠し、足音を忍ばせることによって
山々を渡り歩くことができた。
山と海の繋ぎ目に、鹿は生きているのではないか ────────────。
しばらくして、僕はそう思うようになった。
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独自の視点で自然と人の関わりにある、その文化やランドスケープを切り取ってきた写真家、津田直。
2019年に参加した宮城県石巻の総合芸術祭、「Reborn-Art Festival 2019」をきっかけに足を運んだ石巻の牡鹿半島に滞在し、宮沢賢治の作品である「鹿踊りのはじまり」の言葉を辿っていく。
2011年に襲った震災による津波によってさらわれてしまった風景に、時代を超えて受け継がれている鹿踊り。狩猟の対象として、あるときには神格化された対象として描かれる鹿。人と鹿を通じて、あるいは生と死のなかで、自然との関わりを映し出し、静かにゆっくりと思考する断片。
タイトルからは、人を主体として鹿(自然/異種)との関わりを描くのか、もしくは鹿(自然/異種)へと私たち人を繋いでいくのか。その狭間で揺れる共生という意味を、深く考えさせてくれるようです。
蛇腹折りを採用した須山悠里さんのデザインには、『重ねる』というキーワードが隠されているように感じました。宮沢賢治の思想に、自然と人との関わり。津波による被害に、伝承として受け継がれる鹿踊り。
様々な重なりのなかで、文化やその情景を、そしてその時間を、美しくも静謐に映し出された一冊です。
発行元であるhandpicked 盆子原さんは、「ひとりひとりにお手紙を届けるようなお気持ちで編まれた作品集です」と語ってくれました。私たちも、そんな想いを載せてお届けいたします。
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著者 :津田直
デザイン:須山悠里
発行所 :handpicked 盆子原明美
▷https://handpickedbook.jp/