雲ができるまで
¥2,420
『呼吸して、汗を流したような時間を残すことができるのは、手や体を動かして作ったものだけです。
だから、どんなものでもそんな気配の残るものは大切にしたいと思ってしまいます。雲のように現われては消えていくような些細な知恵や工夫が、毎日の生活の中に埋もれながらもそこに息づいているような気がするからです。』
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信陽堂さんから、長く入手困難になっていた短篇集が復刊されました。
かけがえのない日々の集積は、初版から25年経ったいまでも、いまだからこそ、ささやかな暮らしに添う大切な一冊として息づいています。
舞台は90年代初めの湘南。ちょうど僕が生まれたその年に、神奈川県の海辺の街に移り住んだ永井さんは、生活に根ざしたアートを提唱する『サンライト・ギャラリー』の運営をはじめました。そこに集う、自分らしい生き方を模索する人々との、心惹かれる風景の断片がここに描かれています。
すぐそばに転がっているちいさな日々を大切に、遠回りでも、非効率なことにこそ含まれる愉しさに喜びを見出すこと。いまでこそ行き過ぎた資本主義に対してぽつぽつと芽生えたこの意識に、バブル以降の新しい価値観を求めて移り住んだ永井さんは、当時からずっとその違和感に気づいていたのかもしれません。
暮らしとは何か、豊かであるとは何か。言葉として時代を飾る便利なそれらを、彼の生きた日々を通して私たちに語りかけてくれるよう。この本と一緒に、雲ができるまで、ゆっくりと日々を過ごしていきたいです。
美しくも親しみを持って接してくれる装丁は、信陽堂の丹治さん。タイトルと絵柄は活版に、最後まで調整をされた水色は、滴り落ちる雨のように澄んでいます。
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著者 永井宏
出版者 丹治史彦
発行所 信陽堂
表紙印刷 日光堂
本体印刷 藤原印刷
製本 加藤製本